松阪といえば言わずと知れた和牛の産地である。
お伊勢参りのあと、松阪牛を食べたいがために宿泊地を松阪に決めた。
全国遊廓案内には松阪町遊郭として記載されている。
かつて市内を走っていた松阪電車に乗り平生町で下車、貸座敷14軒、娼妓75名という規模だったらしい。
有名焼き肉店「一升びん平生町店」のすぐ近く、寿司屋の軒先に松阪電車の平生町駅があったという案内が貼られていた。
愛宕町は国道166号線の東側にあるのだが、平生町周辺にもこういった店は点在している。
余所者にとってはなかなか踏み込みにくい階段である。
国道166号を東へ横断すると愛宕町である。
他の遊里と同様スナック街となっている。
こういう夜の街を見るとその土地の規模がなんとなく想像できるのである。
遊廓時代の建物は空襲でほとんど残っていないらしいが、赤線時代を彷彿とさせる建物はそれなりに残っているようである。
集合住宅の1階に並ぶ看板も味わい深い。
料理店の鑑識の残る店舗も新型ウイルスの猛威には抗えなかったようだ。
知る店ではないが、関係者様の今後の健闘をお祈りしたい。
近頃こういった街の散策をしている折、ブロック塀の意匠にとても興味が湧いてくるのである。
遊里であったこととは無関係とは思うのだが、愛宕町には様々な意匠のブロック塀があった。
スナック街はけっこうな範囲で広がっているのだが、個人的には特に面白みがないように感じられすぐに愛宕町を後にした。
そして今回どうしても写真に収めておきたかった場所へ来たのである。
もう営業はしていないであろう寿司屋の路地を進んだ先にある成人映画館「松阪大映」である。
閉館したという情報は仕入れていなかったがどうやら営業はされていなさそうである。
昨今諸般の事情によりこれくらいの露出度で勘弁してもらいたい。
上映時間表は4月14日とある。
2019年くらいまでは営業していたという情報があったので、新型ウイルスが蔓延しはじめた2020年4月中頃をもって営業を取りやめたのだろうか。
昭和をそのままくり抜いてきたかのような空間。
錆びた鉄に上映中の文字がひたすらに寂しい。
ガラスの向こうは休館したままの姿が残されている。
明日にでもまた営業はできそうに思える。
この奥のスクリーンにもう一度人妻の痴態が映し出されることを切に願うばかりである。
昭和時代はこういった場所で看板を描いていたのだろうか。
筆者は全く絵心がないのだが、映画看板の絵師になりたかった時期があったのを思い出す。
毎日欠かさず昇る太陽がなんとなく残酷に思えてしまうのである。
映画館の裏側には松阪大映の文字跡が伺える。
現在は映画館裏側は広く駐車場になっているので丸見えなのだが、あの寿司屋の路地奥にこんな映画館があったという時代を知る人はもう少なくなってきているんだろう。
【訪廓日:2020年12月13日】